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もはや会社での対応は困難であり、年末調整は廃止し確定申告を義務付けるべき、という考え方もあるでしょう。今後の年末調整の在り方について、考えて頂くきっかけとなれば幸いです。
(本特集では特に結論はありません)
源泉徴収と年末調整の始まりについて
国としてとりっぱぐれが少ない、源泉徴収・年末調整システムの最大のメリットが徴税側の便宜にあることは議論を待たないでしょう。
私はかねてから、給与所得者は個人で確定申告をするのではなく、なぜ給与支払者が年末調整をするのだろう、と疑問に感じていました。税法改正を重ね年末調整はより複雑化し、年末調整事務による企業のコストおよびリスク負担も看過できないのではないかと思います。
源泉徴収と年末調整の始まりについてのQ&A
源泉徴収、年末調整導入の意思決定にあたっては当時苦悩も多かったようで、現在の価値観で当時の意思決定を論評することは簡単ではないと思います。今回の特集は、源泉徴収、年末調整の在り方を批判するために組んだものではなく、源泉徴収、年末調整導入当時の目的等を概観することにより、その後法改正を重ねた結果である現在の年末調整の在り方が本当によいのか、個々に考えて頂きたいという思いから組みました。
Aについては、源泉所得税・年末調整導入したときの文献からすべて引用したいと考え努力しましたが、入手困難なものも多く、その希望は叶いませんでした。
しかし、リアリティが持てるようできる限り古い文献から引用しています。
Q1.源泉徴収と年末調整はいつから始まったのでしょうか。
Q2.源泉徴収と年末調整はなぜ始まったのでしょうか。
「わが国の源泉徴収制度は(中略)日中戦争のさなかの戦時増税、大衆課税を目的に始まった。」
「そして年末調整は(中略)不足しがちな徴税能力を補うため、国が雇用主に手数料を支払って*徴税業務を代行させたのが嚆矢であった」
- *「手数料を支払って」とはA3で触れる交付金制度のことです。
さらに源泉徴収導入当時の文献によると源泉徴収制度について次のような記述があります。
「即ち戦争には増税は不可避であり、増税の対象として先づ所得税が考へられたのは当然であるが、其の為には負担の普遍化を図り、多数の国民をして分に応じた国費の負担を為さしめることが、どうしても前提になるのであつて、其の結果激増する納税者が比較的経済上の苦痛も少なく、簡易な方法で納税出来るやうにするには源泉課税の方法を採用する外なかつたのである。」
そして年末調整については、終戦後、国の徴税能力が不足していた為、国の徴税業務の手間を省き、税収を上げることが主目的だったようです。
「この税金の清算には、通常の場合はいわゆる確定申告を税務署へ提出して行う。しかし、給与所得者は、大部分一箇所の給与の支払者から支払われ、その支払者のもとで確実に清算することが可能であるので、
これらの者がいちいち確定申告を行うことは、給与所得者自身も、大変手数を要するので、給与の支払者が給与所得者にかわつて税額の清算を行うこととしている。」
「かりに、給与所得者のすべてが確定申告書を提出して税金の過不足額を清算することとしたのでは、給与所得者にとっても、国にとっても、非常に手数のかかることですから、給与所得者については給与の支払者に源泉徴収事務の一環としていわゆる清算事務をも行っていただくことを定め、これによって大部分の給与所得者は確定申告書を提出しなくてよいことになっております。」
Q3.交付金制度は現在存在しませんがいつごろ廃止になったのでしょうか。
「交付金制度があった時代も、税務署に対して請求をしてくる源泉徴収義務者はほとんどなかったという。」
「請求してくるのは市役所とか、郵便局とか、お役所ばかりでした。(中略)無駄な費用を遣ったとして、落ち度になるからなんですね」
「戦争中は企業が徴税代行をしたからといって、お上に手数料を請求できる雰囲気ではなかった。」
「源泉徴収義務者に対する交付金制度は、シャウプ以後の所得税法からは廃止されていた。」
と記述されています。
- ※シャウプとは、コロンビア大学のカール・サムナー・シャウプ博士のことで、GHQの要請を受けてシャウプ勧告を行った人物です。日本の税制の生みの親といわれています。
Q4.源泉所得税制度によってどのような成果が上がったのでしょうか。
「源泉徴収所得税は、源泉徴収義務者の高い納税協力に支えられて、巨額の税収をあげることができ、その税務執行は、他の部門と比べて最も問題の少ない分野であったといってよい」
システム関連に強く、人事総務部門のトータルアウトソーシングのプランニングおよび受託を得意とする。さらに、人事労務系のコンサルティングに力を入れており、人事制度構築コンサルティングのほか、M&Aコンサルティング等、企業の経営企画部門、人事労務部門の双方の支援をしている。