その他 更新日:2024年12月23日

年末調整で乙欄適用の給与(乙欄適用の給与所得の源泉徴収票)を含めてよいか

なかの経営労務事務所では給与計算のアウトソーシング(委託・代行)をしていますが、給与計算アウトソーシング(委託・代行)の延長で、年末調整時に中途入社社員から乙欄適用の前職の源泉徴収票の提出を受けたが、提出された前職の乙欄適用の源泉徴収票を年末調整に含めてよいか(合算してよいか)と質問を受けることがあります。

以下、簡単ではありますが、年末調整時に中途入社社員から提出された乙欄適用の源泉徴収票を年末調整に含めてよいか(合算してよいか)を解説します。
※「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した場合は甲欄適用、それ以外は乙欄適用となります(説明を簡素化する為、ここでは丙欄は除きます)
※詳細は必ず税務署等へご相談下さい

1.年末調整の対象者

簡単に説明すると、年の最後の給与を支払うときまでに「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人(つまり甲欄適用者)のうち、1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円以下である人、12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人など、一定の要件に該当する人が年末調整の対象となります。

つまり、乙欄適用者は年末調整の対象ではありません。
No.2665 年末調整の対象となる人(国税庁)
No.2668 年末調整の対象となる給与(国税庁)

2.年末調整の対象となる給与の原則

年の中途で就職した人が、就職前にほかの会社などで給与を受け取っていた場合には、前の会社などに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(甲欄適用)を提出していれば、前の会社などの給与を含めて(合算して)年末調整をします。

つまり、実質的に乙欄適用のみ合算できる旨の説明がなされていますので、年末調整においては甲欄適用のみを含め、乙欄適用の源泉徴収票は含めない(合算しない)こととなります。
No.2668 年末調整の対象となる給与(国税庁)
これは、所得税法第190条第1項に次のとおり規定され、第1号のカッコ内に「扶養控除等申告書を提出したことがある場合」(つまり甲欄の場合)を前提を置いていることが理由と考えられます

「給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(略)所得税の額の合計額が(略)税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。

所得税法 第二節 年末調整 第百九十条(年末調整)

その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には、当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。次号において同じ。)につき第百八十三条第一項(源泉徴収義務)の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額

所得税法 第二節 年末調整 第百九十条(年末調整) 第一項

所得税法(e-GOV)

3.年末調整の対象となる乙欄給与

それでは例外なく、年末調整において、乙欄適用を受けていたときの源泉徴収票を含めない(合算しない)のかというとそうではありません。

簡単にすると、前職(例えばA社)で、「扶養控除等申告書」を最終的に提出し甲欄適用となったが、A社で「扶養控除等申告書」を提出する前に受け取ったA社の乙欄適用の給与所得は年末調整に含める(合算する)ことになります。
また、年末調整をする会社(例えばB社)で、「扶養控除等申告書」を最終的に提出し甲欄適用となったが、B社で「扶養控除等申告書」を提出する前に受け取ったB社の乙欄適用の給与所得は年末調整に含める(合算する)ことになります。
上記の根拠は所得税基本通達190-2(3)に規定されています。

190-2(その年中に支払うべきことが確定した給与等の計算)
法第190条第1号及び第2号に規定する「その年中に……支払うべきことが確定した給与等」の金額は、次に掲げる場合には、それぞれ次により計算することに留意する。

  • (3)法第190条第1号かっこ内の規定により他の給与等の支払者が支払う給与等を通算する場合当該他の給与等の支払者が支払う甲欄給与等(当該他の給与等の支払者がその年1月1日以後給与所得者の扶養控除等申告書の提出を受けるまでの間にその者に対し支払う乙欄給与等又は丙欄給与等があるときは、これらの給与等を含む。)と自己がその者に対しその年中に支払う甲欄給与等(他にその年中にその者に対し支払う乙欄給与等又は丙欄給与等があるときは、これらの給与等を含む。)とを通算する。

所得税基本通達190-2(3)

所得税基本通達(第3節 年末調整 法第190条《年末調整》関係)

非常に間違いやすいところなので、自社で年末調整をする場合のみならず、給与計算のアウトソーシング(外注・委託)している場合も注意しましょう。

4.なぜ乙欄適用の前職源泉徴収票は原則年末調整で含めることができないのか

甲欄適用も乙欄適用も給与所得であることには変わりません。

なぜ、前職の源泉徴収票が甲欄適用であれば年末調整に含めることができ、乙欄適用であれば年末調整に含めることができないのでしょうか。
どちらも給与所得なので、理論上はどちらも含めて年末調整しても問題無いように思えます。
根拠(条文ではなくその条文を制定するに至った経緯や趣旨など)の調査を試みましたが、以前特集を組んだ「源泉徴収と年末調整の我が国の起源」の時のように調査の時間をとることができませんし、調査をしたとしても書面化されている可能性は低いように思います。

ここからは私見で説明を試みます。

前職(例えばA社)の全ての期間において乙欄適用の所得税を控除したとします。
乙欄適用の所得税率は高い為、徴収済みの所得税は高額になる可能性があります。
年末調整をする会社(例えばB社)でA社の乙欄適用の源泉徴収票の金額を含めて年末調整すると、A社で徴収済みの高額の所得税を、何ら関係の無いB社で還付しなければなりません。
一人ならまだしも、企業規模にもよりますがそれが数十名、数百名に及ぶとどうなるでしょうか。
翌月納付の所得税額から相殺されるとしても、相殺できずB社で多額の持ち出しが発生し、B社資金繰りが悪化する可能性があります。
年末調整は実質的に国で行うべき確定申告の肩代わりを給与支払者(会社)が負っている制度です。
国としては国で行うべき確定申告の肩代わりを給与支払者に負わせているにも関わらず、多額の持ち出しが発生する可能性がある制度は説明がつかず導入できなかった、そういったところでしょうか。
想像の域は超えませんが、以上が私見です。