「人事評価」と「承認」の違い
~「承認」による内発的動機付けで強い組織を作り上げる~

我が国においては、企業の従業員数が一定以上になれば、たとえ中小企業であっても人事評価制度を策定するケースが多いのではないかと思います。
これは、我が国の雇用慣行はメンバーシップ型雇用であり、ヒト基準であるが為に、社員間で公平な「人事評価」をしようといった動機が働く為であると筆者は考えています。
私の肌感覚では中小企業であっても社員数が20人以上の規模になれば、どの程度作りこむかはさておき、人事評価制度を策定するニーズが増える印象を持っています。
策定した人事評価制度は賃金制度などの処遇の決定制度と連動していることが通常であり、人事評価制度を専ら処遇を決定する為のツールとして利用しているケースが多く見受けられます。
それはそれで否定はしませんが、せっかく策定した人事評価制度を社員の成長や能力開発に活用しない手はありません
「人事評価」によって、出来ていることは率直に「承認」し、足りないところがあればしっかりと指摘し、それを今後補うよう方向づけをすることが評価者である上司の重要な役割です。
ここまで読み進めたところで「人事評価」と「承認」という言葉が登場しました。
普段何気なく使用している言葉ですが、しっかりとその意味や違い、関係性を理解しておくことが重要です。
本記事は、「人事評価」と「承認」の違いや関連性を明らかにした上で、「承認」の重要性を解説し、変化のスピードが速い世の中であっても、組織業績を拡大できる強い組織作りの参考情報にして頂きたいという思いから、作成を企画致しました。

「人事評価」と「承認」

はじめに、「人事評価」と「承認」の定義について見てみます。

「人事評価」とは何か?

「人事評価」の定義は、書籍やWEBでの解説者の主義主張により異なります。

主義主張などを一切入れず辞書によって定義すると、「人事評価」とは、「社員の行いに関して、良し悪しや優劣の程度を評価者が見分けること」と定義することができます。
なお、「人事評価制度」とは「人事評価」を会社の運営上の決まりとして仕組化したものであり、「制度化」の有無にかかわらず、「人事評価」することは可能という関係にあります。
例えば、あえて仕組化(制度化)せず、評価者の主観や価値観による評価も「人事評価」に該当することになります(人事評価制度は存在しないが「人事評価」は行っているということです)。

「承認」とは何か?

「承認」とは、辞書によると「その事柄が正当だと認めること。もっともだと認めること。」と定義されています。

「承認」すべきか否かを決定する際に、通常は価値判断(職場においては「人事評価」)が入ります。
つまり、「人事評価」をした後に「承認」するプロセスを踏みます。

「人事評価」と「承認」の違い

メンバーシップ型雇用である我が国において、公平な処遇を決定する為の基礎資料となる「人事評価」は会社において必要不可欠なものであり、「承認」とは「人事評価」の先にあるもので部下のモチベーションを向上させるための手法である、と筆者は考えています。

「承認」する場合、ネガティブな「人事評価」結果を「承認」することは、「承認」という言葉の定義上あり得ません。
ポジティブな「人事評価」結果のみを「承認」することになります。
「人事評価」には良い「人事評価」結果もあれば悪い「人事評価」結果もありますが、「承認」はポジティブなもの(良いもの)のみを「承認」します。これが両者の決定的な違いです。

「承認」をどのように行うべきか

それでは「承認」とはどういうものなのでしょうか。詳しくみて行きます。

「承認」の類型

職場の上司と部下のコミュニケーションにおける、「承認」にはどのような類型があるのでしょうか。

「承認」について、筆者は次の4類型にまとめることができるのではないかと考えています。

  • 存在の承認
    「あなたがいてくれてありがとう」といった具合に部下の存在そのものを「承認」する
  • 行動の承認
    「いつも元気に明るく挨拶をしているね」といった具合に部下の行動を「承認」する
  • 変化の承認
    「3ヵ月前と比べて仕事のミスが減少した上スピードが速くなったね」といった具合に部下が変化していることを「承認」する
  • 成果の承認
    「当初掲げた目標が達成できたね」といった具合に部下の成果や結果を「承認」する
人事評価制度の運用における面談おいては、「成果の承認」が最も重要視されているのではないでしょうか。
部下育成に力を入れている組織では、次いで「変化の承認」、「行動の承認」がなされている傾向があり、「存在の承認」はよほど意識をしていなければなされないものと思います。
4つの「承認」の類型はそれぞれ重要なので、面談においてはバランスよく「承認」をする努力が必要です。

「承認」する際の重要事項

「承認」する際に極めて重要なことは、「承認」したことを相手、つまり部下へ口頭や文字で明示的に伝えることです。

「承認」したことを部下へ明示的に伝えることで、初めて部下は上司から「承認」されたことを認識することができます。部下が上司から「承認」されたことが認識できなければ、「承認することによる効果」を得られません。

「承認」することによる効果

部下が上司から「承認」されたことが認識できれば、部下の自己肯定感(自らの価値や存在意義を肯定できる感情)や自己効力感(自分なら乗り越えることができるといった感覚)が高まります。

これらは部下のモチベーションアップにつながり、内発的動機付けによるチャレンジ精神の醸成、意欲的な取り組みの促進等がなされ、足りないものを補うべく部下が進んで自己の行動改革や能力開発等を致します(本記事ではこれらをまとめて行動変容といいます)。
つまり外部からの動機付けではなく、部下の内発的な動機付けによる行動変容が、「承認」することで得られる最大の効果であると考えます。

「承認」と頻度の関係

効果的に「承認」する場は面談であり、面談による対話の中で「承認」をします。

立ち話のついでに「承認」するよりは、しっかりと1対1で対話をする機会を部下の為につくり面談の場で「承認」した方が高い効果が得られることは言うまでもありません。
さらに「承認」は頻度が重要です。
3ヵ月に1回、1時間の面談を実施するよりは、できるだけリアルタイムに1週間に15分程度でもよいので、頻繁に実施し、できるだけリアルタイムに「承認」した方が、部下の行動変容に効果的であることは応用行動分析学で実証されています。

「人事評価」面談だけでは「承認」の頻度が不足する

社会を取り巻く環境に目を移すと、常に変化しておりその変化のスピードが年々早まっています。

その変化に合わせて、企業は自ら常に変化し続けなければ、やがて変化に取り残され、ゆくゆく組織は淘汰されかねません。
自ら変化し続ける為には、企業を構成する社員が自ら変化することの必要性を認識し、常に自ら変化し続けなければなりません。その為にも、社員一人一人の内発的動機付けによる行動変容が必要です。
人事評価期間は通常1年間又は半年であり、期初面談、中間面談、期末面談の頻度では、部下の内発的動機付けによる行動変容を促す為の「承認」の頻度が不十分です。
別途「承認」の頻度を増やす為の機会創出が必要です。

多くの上司は部下を積極的に「承認」することに慣れていない

評価者である上司は、時代背景もあり若手社員のときに当時の上司から自分自身が「承認」された経験が少ない可能性があり、部下を「承認」することに不慣れなケースが考えられます。

さらに、プレイングマネジャーが多い企業においては、上司の業務多忙により部下を積極的に「承認」する機会を持てず「承認」することの経験値が少ないケースもあるでしょう。
上司が部下を積極的に「承認」することに不慣れだったり経験値が少なかったりする場合は、上司に「承認」することの重要性や「承認」する為の手法等を伝えつつ、「承認」する機会を企業自ら仕組化し、「承認」する頻度を増やす努力が必要です。

「承認」の頻度を増やす仕組み

上司と部下とのコミュニケーションの機会を創出する為、1on1を仕組化するなどして上司と部下との対話を増やし、その中で部下の行動、変化、成果などを「人事評価」し、さらに「承認」する機会を創出している企業が増えています。

「承認」する機会を増やすことで、部下のモチベーションをアップし、「内発的な動機付けによる行動変容」につなげ、結果として組織業績を拡大させる、そのような信念のもと、「承認」を重視する企業は増えているように思います。

まとめ

本記事では、強い組織作りに必要な内発的動機付けと、ポイントになる「承認」について、「人事評価」との違いや関係性、内発的動機付けに繋がりやすい「承認」とはどういったものかを解説いたしました。

通常の業務の他に「承認」する仕事が増やされるのは納得できない、プレイングマネジャーであるが為に部下を「承認」する時間を頻繁に設けることが出来ない、などといった批判が上司である評価者からなされるかもしれません。
それらの批判に対応する為には、上司の職務をある程度マネジメントに特化させる、部下の育成に興味がある社員を評価者である管理職に登用する、などの変革が必要でしょう。
これらの変革はトップダウンで行われるべきであり経営者の強い意志が必要です。
環境変化のスピードが年々早まる中で組織業績を拡大し続けることができる強い組織を作り上げる為に、変革するのか、やむなく現状維持とするのか、この決断を経営者は迫られています。